自分のキャリアだけでも大変なのに、夫婦になるとキャリア形成はもっと大変だと思いませんか?最近では共働きも当たり前となり、夫婦を営む上でのキャリアの重要性はかつてないほど高まっていると言えるでしょう。本連載記事は、そんなキャリア形成に関心を向けるご夫婦やカップルを想定し、どのように夫婦でキャリア形成を進めていくかについて解説をしていきます。連載4本目となる今回のテーマは「夫婦のキャリアプラン」です。夫婦でキャリアプランを話し合うことは、ふたりの未来を共に築くための重要なステップです。特に共働き夫婦にとって、キャリア形成と家庭のバランスを取ることは大きな課題でもあります。本記事では、夫婦で将来的なキャリアについて話し合う方法やコツについて詳しく解説します。夫婦にキャリアプランが必要な理由個人がキャリアについて考えることは一般的になりつつありますが、夫婦にとってキャリアプランは本当に必要なのでしょうか。キャリアプランとはそもそもキャリアプランとは、「どのような仕事や働き方を実現したいか」を中長期的な視点で考えていくものです。キャリア上で実現したいゴールを描き、それを実現するためのプロセス・道筋を計画していくのが一般的な手法です。キャリアプランはキャリア形成の地図のような役割を持ちます。迷子になりがちなキャリアの方向性を定め、どのように前進していくのかを決断・実行するのに役立ちます。昨今ではキャリアコンサルタントやキャリアコーチといったキャリアに関する専門家も増え、第三者にキャリア相談をすることも一般的になりつつあります。自分ひとりで考えるだけでは行き詰まってしまいがちですが、第三者のサポートを得ることはキャリアについての視野の拡大や前向きな行動を促す効果を得ることが可能です。もちろん、キャリアプランを作れば必ずしも計画通りに進むわけではありません。ですが、キャリアプランを意識することで将来に対する不透明さを減らし、日々の努力が積み重なって前進しているという実感を得ることができるでしょう。夫婦でキャリアプランを話し合うことの重要性個人のキャリアプランを作ることは少しずつ浸透してきている一方で、それを夫婦で作成したり共有したりすることはまだまだ一般的ではありません。ですが、今後多くのライフイベントに直面する可能性のある夫婦にとって、それらを想定しながらキャリアの方向性を定めていくことは重要です。例えば、転職や起業は共働き夫婦にとって重要なライフイベントですが、キャリアに対するお互いの希望やタイミングを把握しておくことで金銭面や家事・育児の協力体制を築くことができます。また、妊娠・出産も夫婦が経験し得るライフイベントのひとつですが、それらを想定して働き方や働く環境を整えておくことも可能です。特に昨今は、「マミートラック」の問題が注目されています。これは、特に女性が育児のためにキャリアを中断または制限される状況を指しますが、そういった問題への不安や対策については直面する前に話し合っておくことが大切です。理想のキャリアを実現したりリスクを回避するためにも、夫婦が早くからキャリアプランについての話し合いは有効なのです。夫婦が話し合うべき4つのテーマ夫婦でキャリアプランについて話し合う具体的な方法について解説をしていきます。夫婦でキャリアについて話し合う際は、以下の4つのテーマについて順番に話し合うことをオススメします。以下のようなテーマを月に1時間でも話し合う場をつくることから始めましょう。テーマ1. 現在地についてまずは、お互いの現在の状況をしっかりと把握することが第一歩です。それぞれの仕事・キャリアの状態が分からないと、キャリアプランについて深く話し合うことは難しいでしょう。現在の仕事・業務の内容や満足度、職場の環境や人間関係、やりがいやストレスなどを率直に共有し合うことが大切です。具体的には以下のような内容について話し合います。現在の仕事・業務の内容は?職場での人間関係は?現在の仕事・職場でやりがいを感じられているか?具体的には?現在の仕事・職場で不満やストレスを感じることはあるか?具体的には?なお、現在地については普段からお互いの仕事に対する理解を深めておくことが大切です。そのため、夫婦の間で日常的に報告・連絡・相談(ホウレンソウ)をするように心がけましょう。関連記事:夫婦のキャリアの育て方③:夫婦でホウレンソウを徹底しよう ↗️テーマ2. 将来像について次に、将来のキャリアビジョンや目標について話し合います。これはお互いがどのような未来を描いているのかを知るための重要なテーマです。これからのライフスタイルや家庭、趣味などあらゆるテーマについて話し合っても構いませんが、話し慣れないうちはキャリアについての将来像を中心に話し合うことをオススメします。具体的には以下のような内容について話し合います。仕事上、5年後に実現していたいことは?(業務、部署、役職、働き方、給与など)転職・休職・起業などを考えているか?実行に移すきっかけやタイミングは?ライフイベント上で実現したいことはあるか?(ライフスタイル、家庭、子ども、趣味など)将来像については、最初から明確である必要はありません。ほとんどの場合、転職や起業などは「時期は決めていないけど将来的には」という方が多いのではないでしょうか。現時点で時期が明確ではなくとも構いませんので、想いや方向性をお互いが理解し合っている状態をつくり続けることが大切です。テーマ3. 不安・懸念について将来像がある中では、必ず不安や懸念が生まれます。お互いの不安や懸念は表現しなければ伝わらないので、率直に共有することが重要です。特に仕事上や性別上の不安・懸念は立場が異なるパートナーが深く理解するのは簡単なことではありません。ですので、パートナーに察知してもらうことは期待せず、何度も丁寧に説明を重ねることが大切です。具体的には以下のような内容について話し合います。仕事・キャリア上の将来の不安・懸念はある?具体的には?性別・立場上の将来の不安・懸念はある?具体的には?ライフイベント上の将来の不安・懸念はある?具体的には?特に大切なのは、不安や懸念に対しての本気度・深刻度を伝える工夫をすることです。その温度感が伝わらないと、「そこまで深刻だと思わなかった」という認識のズレが生まれてしまいます。例えば、「このことを考えると毎回眠れなくなるんだけど」「深刻度100%ぐらいなんだけど」「あなたにも助けて欲しいんだけど」といった表現は有効です。そのような工夫を通して、キャリアを「ひとりごと」から「ふたりごと」にしていきましょう。テーマ4. 今後の協力体制について最後に、これまでの話し合いを踏まえて夫婦の協力体制を築くための方法・取り組みについて話し合います。現在地や将来像、不安・懸念などについて共有して終わりにするのではなく、それを踏まえて夫婦でどんなアクションをしていくかを決めることが非常に重要です。具体的には以下のような内容について話し合います。夫婦の話し合いの方法や頻度はどうする?具体的に支援してほしいことはあるか?今後も継続的に検討すべき事項はあるか?具体的な行動に落とし込んでふたりで約束をし合うことが、夫婦の話し合いの最後の仕上げです。ここで「何をするのか・しないのか」を明確に決められるかどうかで、話し合ったことが普段の生活で活きるかどうかが決まります。夫婦が約束を積み重ねることは、夫婦の協力体制を育てることにつながるのです。夫婦でキャリアプランを話し合うコツキャリアプランについての話し合いを行う上では、以下のような点を意識しておくことが大切です。事前準備・事後対応を大切にする話し合いの場ももちろん重要ですが、それと同じぐらいその前後の動きも重要となります。話し合いをする前には必ず事前準備をし、話し合いを終えたあとは必ず事後対応をするようにしましょう。事前準備とは、話し合いに向けて自分の考えを整理していおくことです。特に「現在地」「将来像」「不安・懸念」については、自身がどんな状態かを適切に共有できる準備をしておくことが大切です。その場で考えてしまうと、うまく説明できなかったり漏れが生まれたりして有意義な場として機能しなくなってしまいます。また、事前準備をすることは「夫婦のキャリア形成」を大切にしていることをパートナーに示すことになり、夫婦の信頼関係を強固にすることにもつながります。事後対応とは、話し合いを終えたあとでの具体的なアクションです。例えば、次回に向けた検討事項をメモに残したり、夫婦で約束したことを貼り出したり、次回の日程のスケジュールを入力したり。ただ話し合って終わりではなく、その内容を意義あるものにするために行動することです。事後対応を適切に行うことで、話し合いの時間が無駄にならずに夫婦の前進につながることでしょう。プランの細かさよりも方向性を重視する今回の記事で紹介した話し合いのステップでは、そこまで具体的なキャリアプランを築くことはできません。ですが、夫婦にとっては大まかな内容を話し合うだけでも十分です。夫婦のライフイベントはさまざまな要因に左右されるため、計画を細かく立てたとしてもその通りにいくことは珍しいからです。そこで役に立つ考え方が、スタンフォード大学のジョン・クランボルツ教授が提唱したプランド・ハプンスタンス(Planned Happenstance)というキャリア発達理論です。日本語では「計画的偶発性理論」と呼ばれ、計画された出来事だけでなく予期しない出来事がキャリア形成に大きな影響を与えるという考え方です。これは計画が不要ということではなく、計画的な準備をしながらも予期せぬ出来事に柔軟に対応していくスタンスが大切であるという意味合いです。そして、夫婦のキャリア形成においても細かいプランより「方向性」が重要です。どちらの方向に行きたいのかが定まってさえいれば、さまざまなイベントによって道を外れたとしても遠回りをして前進することが可能となります。細かい計画は無駄ではありませんが、計画を具体化すればするほど意見の対立や衝突が生まれやすくなり、柔軟性も損なわれます。ですので、大まかな方向性を夫婦で共有し、状況に応じて書き換えていく余裕を持ったキャリアプランを大切にしていきましょう。一度で終わらせず継続的に話し合うキャリアプランについて夫婦で話し合う際は定期的に何度も話し合う機会を作るようにしましょう。家庭や職場の環境は日々変化していきますので、それに伴って現在地や将来像は大きく変わるものです。また、新たな不安や懸念が生まれたり、取り組んでみたアクションが上手くいかないことも出てくるでしょう。夫婦の話し合いは結論づけることと同じかそれ以上にプロセスが大切です。一度キャリアプランについて話し合ったから大丈夫ということはありません。何度も話し合う中で、お互いが本当に大切にしていることや奥底の悩みに気づけるものです。一度で知った気にはならず、人は常に変化をしているということを念頭に置きましょう。話し合いの場は可能であれば1ヶ月に1回、最低でも半年に1回は設けるようにしましょう。そして、定期的にお互いの考えや状況を共有しながら、計画を見直していくことが重要です。月末や月初などで定例でスケジュールを押さえたり、外食をしながら話し合うなどの工夫をしていきましょう。まとめ本記事では、夫婦でキャリアプランを話し合うことの重要性や、そのための具体的な方法について解説しました。結婚をすると、キャリアは自分だけのものではなく、夫婦にとっての重要事項に変わります。特に共働き夫婦にとっては、キャリアプランについての話し合いをできているかどうかが今後のキャリア形成を左右することでしょう。まだまだ夫婦でキャリア形成について深く話し合うことは一般的ではありませんが、少しでも多くのご夫婦が理想的なキャリアと家庭の両立を実現できることを願っています。